2018年8月 7日
仙台湾の豊かな漁場を生業の場に、浜の食文化を守る
仙台湾を漁場に持つ亘理荒浜漁港には、ヒラメやカレイ、アナゴなど多種多様な魚介が水揚げされます。震災で漁船の数は半減しましたが、2011年12月には魚市場の修理がほぼ終わり、セリも再開しました。
しかし直後の2012年4月、東京電力福島第一原発事故による放射性物質の基準値変更で、ヒラメやカレイは出荷できなくなりました。「世界レベルよりずっと厳しい水準の基準値になり、検査結果が出る度、一喜一憂した」と、宮城県漁協仙南支所の橋元勇支所長は当時を振り返ります。
出荷規制は1年後に一部解除され、解除されたものから逐次、市場に出していきましたが、今度は風評被害に見舞われました。「買受人さんたちへの販売が振るわない時期もあったし、買受人さんや出荷者さんが取引先から産地証明を求められたりしたこともあった。実際に小売店さんなどと接する人たちは苦労したと思う」。
今は風評被害も収まり、亘理荒浜のブランド魚であるヒラメやカレイの多くが関東や近畿に出荷されていきます。2014年10月には漁港の目の前に産直の「鳥の海ふれあい市場」がオープンし、観光客や地元の人で賑わうようになりました。
その賑わいに一役買っているのが仙南支所婦人部の「浜っこかあちゃん市」です。もともと婦人部では安価な魚をさつま揚げなどに加工して販売していました。震災で人も施設も失いましたが、浜に活気を取り戻すため復活を果たしました。「住民はみな災害公営住宅や街に移転して、浜のコミュニティがバラバラになってしまった。だが浜っこかあちゃん市に来ると懐かしい顔に出会える。良い交流の場になっている」と橋元さんは喜びます。
震災後、新たに漁業を始めた人もいるという仙南支所。燃料や資材の高騰など漁業経営を取り巻く環境は厳しいのですが、橋元さんが「食べ物なら春はアサリ飯、夏はアナゴ飯、秋はハラコ飯、冬から早春にかけてはホッキ飯がある」と自慢するように、亘理荒浜には豊かな魚食文化があります。その豊かな海を生業の場に、浜の人たちの奮闘は続きます。
▲鳥の海ふれあい市場で橋元勇支所長。毎週土・日には、このふれあい市場の一角に浜っこかあちゃん市のコーナーが設けられ、婦人部メンバーが作ったカレイの唐揚げなどの加工品が並びます。
▲漁港には、製氷工場や荷捌き場などの機能が揃った亘理荒浜魚市場が控えています。